「子どもの気持ちを受けとめましょう」というフレーズを見聞きしたことのない人は、おそらくいないのではないでしょうか。「そんなことはいつもやっている」あるいは、「受けとめるってどういうことかよくわからない」、これらはどちらも在りうる感想かと思います。そもそも「気持ちを受けとめる(理解する)」という表現自体が抽象的で、自分でできているのかどうかもはっきりしないと思います。今回はこのテーマについて考えてみます。
気持ちを収めてもらう
まず、なぜ「子どもの気持ちを受けとめる」必要があるのでしょうか?色々な分野から様々な見解はあるかと思いますが、心理学的には「子どもの不安や怒りなど不快な気持ちを和らげる」、さらに「子どもに安心感・肯定感を与える」という効果が挙げられます。子どもは(大人もそうですが)一般的に、何かのきっかけ(問題)で不安や怒りなど不快な気持ちが生じた場合、実際にその問題が解決できなくても「不快な思い」を十分に受けとめてもらえると、気持ちが収まっていきます。そうなると、嫌な気持ちを切り替えて建設的な方向へエネルギーが向きやすくなります。
例えば、子どもが何かにつまずいて転んだときに泣いたり怒ったりしたとします。そのとき、そのつまずいた何かを除去しただけでは子どもの気持ちは収まりにくいです。時には子ども自身が、その何かを壊すなどの行動を示すかもしれません。ましてや「気をつけなさい」などと言われたら、さらに不快な気持ちはヒートアップします。ところが、そのつまづいた何かを除去しなくても「転んで痛かったね」という声掛けや抱きしめで、徐々に子どもの気持ちが落ち着くことがあります。
気持ちに名前をつけて伝え返す
つまり、子どもの気持ちを理解する/受けとめるというのは、子どもの価値観や言動に対して「〇〇なんだね」と受け手が理解したことを伝える関わり、と私は考えます。子どもは自分の不快な気持ちをうまく言語化できないため、泣いたり暴れたりします。そんなときに、「〇〇が嫌だったのね」「〇〇で辛かったね」と、子どもの代わりに大人が気持ちを代弁して伝え返すことで、子どもは自分の気持ちを徐々に言語化できるようになり、不快な気持ちを行動で示す必要がなくなります。
また、子どもが「この石が邪魔だ!」と言ったとしたら「この石が邪魔だったんだね」と、子どもが言ったことをそのまま伝え返すことも有効です。「この石が邪魔だ!」という子どもの受けとめ方を否定せず、「そうだったのね」と受けとめてもらうことで子どもは少し冷静になり、その後の「次からは注意しようね」という教育的なことば掛けを受け入れやすくなります。あるいは「気をつけよっと」と、自分から言うこともあります。
効果はすぐに出るわけではない
ここで紹介した方法を試したからといって、すぐに子どもの様子が変わるわけではありません。特に年齢が幼いうちは気持ちをことばで伝え返したとしても、子ども自身の発達の程度や持って生まれた気性などにより、あまり効果が見られないことも多々あります。しかしながら、何度も繰り返していく中で徐々に自分の気持ちの収め方を、子ども自ら取り入れることができるようになっていきます。人間の成長速度を無理やり早めることはできませんので、大人の目線で急かすのではなく子どもの目線に立ちたいものです。
気持ちは完全に理解できなくてもOK
子どもが小さいうちは親も子どもの気持ちが理解しやすいので、受けとめる関わりはそこまで難しくないでしょう。ところが、思春期の子どもの気持ちを受けとめるとなると、中々難しくなります。なぜなら、子どもの考えや価値観が親には理解しがたくなってくるからです。でも究極のところ、完全に理解できなくてもいいと思います。「あなたの考えは正直よくわからないけど、あなたがそう考えているということはわかった」、「あなたの考えと私の考えが違うってことはわかった」と伝えることができれば、それで十分です。ただし、何も掛けることばが見つからないときは、無理に話しかけずそっとしておくことも大切です。 要するに、目の前の子どもが示す気持ちを否定しなければいいのです。ただし、あまりにも危険なことをしそうなときは、気持ちは否定せずとも行動は制限する必要があります。この辺りの思春期の子どもへの関わり方については、また改めて紹介したいと思います。