【シリーズ第14回】自分をコントロールする

【シリーズ臨床心理士のつぶやき】

〇〇のコントロール

「自分をコントロールする」ということばには、様々な意味が含まれます。友だちに話しかけるか止めておくか、この文章を読むか否か、歩くか止まるか、スマホを見続けるか止めるか、ビール1本にするか2本目を開けるか、といった行動面は分かりやすいですね。他にも、ここで怒るか怒らないか、泣くか泣かないか、といった感情面のコントロールもあります(厳密には、行動と感情は結びついているので分けられるものではありませんが)。さらには、狙ったところにボールを投げたり蹴ったり、タイミングよくジャンプしたり体を回転させたりなど、スポーツ分野では主に肉体を自分自身でコントロールできるかが重要になってきます。今回は、「感情=気持ち」のコントロールに焦点をあててみたいと思います。

理性(思考)の働き

もし人間が感情の赴くままに行動していたら、人類はとっくに滅んでいたことでしょう。そうならなかったのは、人間が生物の中で最も大脳が発達した生き物であり、そのおかげで様々な行動・感情をコントロールできるようになったから、と言えるのではないでしょうか。感情をコントロールできる能力を一般的に「理性」と呼んだりしますが、「思考」と呼んでも差し支えありません。思考とは物事を客観的に捉えて分析したり、「これをしたらどうなるか」といった因果関係を推測して見通しをたてたり、様々な知識を蓄えて新たな発明をしたりと、人間にとってなくてはならないものでしょう。この理性・思考能力が他の生き物に比べて最も発達しているため、人間は自分自身をコントロールすることができるのです。

感情コントロールは徐々に発達する

自分が自分を一番コントロールできていると思いがちですが、実際には中々難しいものです。特に、年齢が小さければ小さいほど大脳の発達が十分ではないため、大人がいくら説明しても、「いやー!」と言って感情が収まるのに時間がかかったり、好きなものを我慢しづらかったりします。小学生はもちろん中学生でも大脳はまだまだ発達途上なので、自分自身の行動・感情を完全にコントロールするには難しいところがあります。それゆえ、家や学校には様々なルールが設けられ、親や先生たちは事あるごとに子どもたちへ注意をしなければならないのです。そうしないと、特に学校では集団生活(社会)の秩序が崩れてしまい大変なことになります。子どもたちにとっては、自分がやりたいことを注意されてつまらない思いをしていると思いますが、どうしても大人の目は必要不可欠なのです。つまり、中学生ぐらいまでの子どもに自己コントロール力=自律を「完璧に」求めるのは、そもそも無理な話なのです。そこまでまだ大脳が発達していないのですから。先生によく注意されるということは、それだけまだ自己コントロール力が十分身についていない、といって差し支えないでしょう。もちろん個人差がありますので、中学生はみんな自己コントロールができない、という意味ではありません。大人ですら、時に自己コントロールを失って罪を犯すことだってあります。

思春期は自己コントロールが難しくなる時期

ところで、中学生以降の自己コントロールを妨げるものが1つあります。それが「思春期」というものです。思春期は内的衝動性や目的意識が高まり、これまで大人に一方的に決めつけられてきた物事に対して、反発しやすくなります。「自分の思い通りにしたいのに大人はそうさせてくれない」といった、大人社会に対する反抗が見られやすくなるのもこの時期特有です。それに加えて、思春期は同年代の他者からどう思われるかに対しても敏感になりやすいため、「みんなやってるから(やってないから)」という同調圧力に流されやすくなります。同年代集団からはみ出ることは、思春期の子どもたちにとっては大袈裟ではなく死活問題になることもあります。また、ホルモンバランスが変化して身体的変化も伴いますが個人差が大きいため、「なぜ自分の体はこうなんだ」といった自分で自分をコントロールできないもどかしさを感じ始めることもあります。頭では分かっていてもそれができないから苦しい、そんな子もいるでしょう。

我慢だけでは限界がくる

先ほどの思春期特有の問題についてはまたどこかで言及しますが、人間は欲求対象を目の前にしたときに「~~したいけど我慢する!」と思うと、ストレスが溜まってしまいます。だから、我慢しなくていい状況をいかにして作るかが大切だと思います。例えば、スマホが気になって勉強できないなら、スマホが目につかないよう一時的に親に預かってもらえばいいのです。友だちとのお喋りで勉強に集中できないなら、友だちと離れた場所に座ればいいのです。ダイエットしたいなら、甘い物や脂質の高いものを家の中から排除すればいいのです。目の前に欲求対象があると、それを我慢することに神経を削られてしまいますので、自分を完全にはコントロールできないとまずは認めることがスタート地点なのです。他には、欲求の代替方法を用意するというのも一つです。例えば、休息時間にスマホ等のデジタル機器を使う代わりに体を動かしたりお風呂に浸かったりしてリフレッシュする、高カロリーなおやつの代わりに低カロリーなものを食べる、といった方法です。ちなみに、「チートデイ」という方法もありますが、これはトレーナー等きちんとした管理のもと行わないと、なし崩しになってしまいやすいのであまりおすすめできません。

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