「負けず嫌いだと成績が上がる!」
負けず嫌いの子どもは成績が良くなる傾向があります。もちろん、なかには他人を気にせず自分のペースでコツコツ積み重ね、高得点をたたき出す生徒もいることは確かです。しかしながら、やはり成績とは他人との比較の中から導き出されるということを考えると、他人に負けたくないという気持ちは成績アップの大きなモチベーションとなるのではないかと思います。
スポーツの世界における「負けず嫌い」の効果
これは学業だけでなく、スポーツの世界でもよく見られる現象です。競争の中から生み出される原動力はその人を大きく動かします。「あの人には絶対に負けたくない」という気持ちは、私たちを自然と努力する方向に向かわせてくれるのです。例えば、陸上競技でトップを争う選手たちは、単なる自己ベストの更新だけでなく、ライバルの存在が練習への集中力や試合でのパフォーマンス向上に寄与していることをよく語ります。
このように、目標となる存在やライバルの存在がモチベーションを高めることは、多くの研究で示されています。「追われる立場より追いかける立場のほうが気が楽である」という心理も、こうした背景から説明できます。追いかける立場では、自分の努力が直接的に成果につながる実感が得られやすく、モチベーションを維持しやすいのです。
心理学における「自己効力感」の重要性
心理学の領域において、セルフエフィカシー(self-efficacy)という言葉があります。日本語では「自己効力感」と訳され、自分自身をどのように認知しているかの程度を測る概念です。分かりやすく言えば、「自分は○○を達成するだけの力を持っている」という認知のされ方がセルフエフィカシーです。
例えば、試験前に「自分はこの科目で良い点を取ることができる」と考える学生と、「どうせ自分には無理だ」と思う学生では、その後の勉強量や集中力が大きく異なります。このセルフエフィカシーの程度が高い人は、「自分はもっと多くのことを達成できる」と考えますし、程度が低い人は「自分にはとてもそのようなことは達成できない」と思いがちです。
負けず嫌いであるということは、このセルフエフィカシーの程度が高いと言えるでしょう。「自分がたったこれだけの点しか取れないわけがない」「自分はもっとやれるはずだ」といった考えを持つことで、自然と努力の方向に向かい、結果として成績も上がる傾向が見られます。セルフエフィカシーの高さと成績には、実際に大きな関連があるのです。
成績向上のためにセルフエフィカシーを高める方法
では、このセルフエフィカシーの程度を高く保つにはどうすれば良いのでしょうか。一つの方法として、「成功体験を積むこと」が挙げられます。成功体験とは必ずしも大きなものである必要はありません。身近な小テストやクラス内での発表など、達成感を得られる小さな体験でも十分です。
例えば、ある生徒が英語の単語テストで満点を取ったとします。その瞬間、「自分は英語が得意だ」という自己効力感が高まります。次のテストに向けての勉強意欲が湧き、結果的にさらなる成績向上へとつながるのです。このような小さな成功を積み重ねることで、セルフエフィカシーを持続的に高めることが可能です。
創心館でも小さな成功体験を積み重ねられるように、生徒に合わせてスモールステップを提示し、それを一つずつ乗り越えられるようにしています。そして小さな成功も見逃さず、少し大げさなくらいに褒めます。そうすることで徐々にセルフエフィカシーが高まっていくのです。
科学的根拠と具体例
セルフエフィカシーと成績向上の関係については、バンデューラ(Albert Bandura)による理論が知られています。彼の研究では、自己効力感が高い人ほど目標に向かって努力を惜しまない傾向があることが明らかにされています。また、この理論を学校教育に応用した事例では、生徒に自己効力感を育むための具体的な指導法が取り入れられ、成績が向上したという結果も報告されています。
具体的な例として、ある中学校で「目標を細かく設定し、生徒が達成した際にフィードバックを与える」という指導法を実践したところ、数学の成績が大幅に向上したケースがあります。このように、適切な目標設定と達成感の共有は、学業だけでなく人生の様々な場面で有効です。
負けず嫌いを育むための家庭での工夫
家庭でも、負けず嫌いの精神を育むためにできることがあります。一つは、親が子どもの挑戦をサポートし、適切なフィードバックを与えることです。例えば、「今回はよく頑張ったね。でも次はここを改善するともっと良くなるよ」という言葉をかけることで、子どもの自己効力感を高めることができます。
先述のバンデューラも「言語的説得」によって自己効力感を高めることができると言っています。つまり、繰り返し褒められ、励まされることで、「自分にもできるのだ」と思えるようになるということです。
また、兄弟や友達と競い合う場面を意図的に作ることも有効です。ただし、この際には無理なプレッシャーをかけるのではなく、「楽しみながら競争する」ことを大切にしてください。
まとめ
負けず嫌いであることは、学業やスポーツの成績向上に大きく寄与する可能性を秘めています。セルフエフィカシーという心理学的な観点からも、「自分にはもっとできる」という信念を持つことが努力と成果につながることが分かります。そのためには、小さな成功体験を積み重ね、子どもが自己効力感を高められる環境を整えることが重要です。
このことは直近の中学や高校の成績だけでなく、将来社会に出たときにも力を発揮してくれるでしょう。短期的な視点ではなく、長期的な視点で子どもの人生全体を考えていくことが大切なのです。
「負けず嫌い」は決して短所ではなく、正しく活用すれば子どもの可能性を大きく広げる力となります。日常生活の中で「負けず嫌い」の性質をどのように育て、活かしていくのかを一緒に考えてみてはいかがでしょうか?