節目には変化と不安を伴う
幼稚園から小学校、小学校から中学校、中学校から高校、高校から大学または専門学校、さらには就職といった具合に、特に3月~4月は、進級、進学、就職といった新しい段階へと進む時期です。誰にとっても新しい環境での生活が始まる前というのは期待と不安が入り混じり、こころが不安定になりやすいものです。しかし、それは大人になるためには必要なプロセスであり、まるで蛇や甲殻類が成長のために脱皮をしたときが、最も無防備な状態になるのと似ているかもしれません。子どもは大人になるまでに様々な「区切り」と「変容」を経験し少しずつ成長していきますが、3月から4月にかけての環境変化は子どものこころにとても大きな影響を及ぼすと考えられます。
しかし、この時期にだけ急に節目がくるわけではありません。2学期から3学期にかけて、段々と次の学年・生活に向けた準備が進んでいきます。中でも、中学生・高校生は進路を選択するために、かなり早い段階から準備を始めます。つまり、次へ進むことを意識し始めた時点から、徐々に「区切る」準備をしていると言えます。子どもたちにとって進路選択というのは、自分で人生を決める最初の決断であることが多く、それには大なり小なり悩みを伴うものです。そのため進路選択は、期待と不安が入り混じりやすい時期なのです。
では、大人である親はどうでしょうか?もちろん昇進や転居、資格を取るなど、大人になってからも様々な「変容」を経験します。そしていずれは子どもが成長して、新たな家庭を築くために巣立つ日が来ます。それも親自身の「変容」をもたらす機会となり、そこがいわゆる親離れが完了した証と言えるのかもしれません。その際、親も様々な感情を味わいます。
何事もほどほどが肝要
ところで、なぜ親は子どものことを心配するのでしょう?そんな当たり前のことを改めて考える必要があるのかと言われそうですが、もちろん子どもが愛おしく大切な存在だからに決まっていますよね。だからこそ、将来を見据えて子どもが困らないよう、できないことをできるようにしてあげたり、危険なことを除去したりと、子どものために親はできることをしてあげたくなるものです。それは大変なこともありますが、わが子のためならと労をいとわない方も多くおられるでしょう。私は勿論この考えに賛成です。
ただし、何事も度が過ぎると問題になってきます。色々な理由を考えて「子どものためにしなければいけない」という思いになりやすい人ほど、注意が必要です。親が転ばぬ先の杖になりすぎると、子どもは失敗から学ぶ機会が減り、自己対処能力が育ちにくくなります。「うちの子は親離れができない」と言っている家庭ほど、実は親自身が「子離れ」できていないことがあります。イメージとしては、自分の不安を子どもに重ねて子どもが頑張る姿を見ることで親が安心する、もしくは親の不安を解消するために先回りして対処する、親自身と子どもの気持ちの区別があいまいで子どもの気持ちを決めつける、といった具合でしょうか。皮肉なことに、親が子どものためを思ってしていることが子どもの健全な成長を妨げることがあるのです。
分離は徐々に時間をかけて進む
ちょっと怖いことを書いてしまいましたが、新しい生活が始まる時期だけでなく進路選択の時期は、子どもだけでなく親も不安になることが多いのです。それは、進学や転居などの現実的な変化だけでなく、子どもが自立していく「親離れ」に伴って親の「子離れ」のプロセスが進行する心理的な「変容」が起きるからだと、私は考えます。どの高校にするのか、どの大学にするのかについて、親ができるのはあくまでも情報提供あるいは望ましい将来像の例をいくつか提示することだと思います。最後に決めるのは結局、自分の人生の主人公である子ども本人なのです。それが親の望んだ将来像とは異なる場合もあります。そんなとき、心の底から子どもが決めた選択を応援するのはそう簡単なことではありません。
上手く子離れするための明確な回答を私は持ち合わせていませんが、ある程度子どもを信頼して任せることが(結果失敗するにせよ)、子どもの成長を促す有効な関わり方の1つと言えるでしょう。というのも、子ども自身、親が提示してくれた将来像とは違った選択をするのは、とても不安を感じるからです。自分で決めた経験が少ない子どもほど、不安も大きく感じやすいかもしれません。だからこそ、子どもは親が自分の選択を応援してくれると非常に心強く感じます。その結果がうまくいかなかったとしても、子どもは自分の決めた選択を後悔しないと思いますし、その経験が大きな糧になると思います。
心理的は親離れ・子離れは「時間」がかかるものであり、急激に訪れることはまれです。それがどれぐらいかかるのかは各親子関係次第ですが、親から見て急に訪れたように見えても実は子どもの心の方では進んでいたということもあり得ます。