受験直前の「冬」は、何のためにあるのか
中学3年生にとって、冬は特別な季節です。
- 内申点はほぼ固まりつつある
- 模試や実力テストの判定も「現実」を突きつけてくる
- 志望校まで「あと何点」がはっきり見え始める
このタイミングで、塾としては冬期講習や合宿を用意し、
「ここから本当の追い込みだ」と生徒たちの背中を押します。
では、受験目前の冬には、どんな「意義」があるのでしょうか。
そして、志望校に合格するために、どんな心構えでこの時期を過ごすべきなのか。
この記事では、
- 中学3年生にとっての「冬」の意味
- 志望校合格のために必要な「冬の心意気」
- そのうえで、教科別・単元別の「具体的なやることリスト」
までを、現場の塾講師の視点から、できるだけ具体的に言語化していきます。
1.中3の冬には、どんな意義があるのか
(1)「積み上げた知識」が、やっと「得点」に変わる時期
中1・中2・中3の1学期・2学期と、受験生たちはずっと勉強してきました。
- 学校のワークをこなす
- 塾のテキストを進める
- 模試や実力テストを受ける
こうした積み重ねは、言ってみれば 「知識と経験のストック」 です。
ところが、秋まではそのストックがまだバラバラなままで、
- 「知ってはいるけれど、テストで取り切れていない」
- 「解き方を聞けばわかるが、自力でやると崩れる」
という状態の生徒が、とても多く見られます。
冬の一番大きな意義は、このバラバラのストックを「得点力」に変えることです。
- 入試本番の出題形式に合わせて
- 自分の苦手と志望校の傾向を踏まえて
- 「どの単元を、どの順番で、どこまで仕上げるか」を決めなおす
これができるのが、まさに冬のタイミングなのです。
(2)「時間の重み」が、一気に変わる季節
夏休みは長く、どこか「まだ時間がある」感覚を捨てきれません。
しかし、冬になると状況は一変します。
- 「入試まであと○日」というカウントダウンが始まる
- 模試ではなく「過去問」を解き始める
- 願書の準備や出願の話が、現実のものになってくる
同じ「1日5時間勉強」でも、
- 中2の夏の5時間
- 中3冬の5時間
では、その重みが違います。
冬は、時間が“ただの量”ではなく“点数に直結する資源”になる季節です。
この感覚を、塾での冬期講習や合宿を通して、子どもたちに体で理解してもらう。
それが、冬の大きな意味のひとつです。
(3)生活リズムとメンタルを「本番仕様」に整える
学力だけが整っていても、
生活リズムとメンタルが乱れていれば本番で力を出し切れません。
- 夜型で昼にぼんやりしている
- 寝不足気味で集中力が続かない
- 結果に一喜一憂して勉強が手につかなくなる
受験直前の冬は、ここを「受験生仕様」に整えるチャンスです。
冬期講習や合宿では、
- 入試本番と近い時間帯に勉強する
- 長時間座って問題に向き合う訓練をする
- 毎日のスケジュールを固定して、リズムを作る
といったことを意識的に行うことで、
「試験当日と似た状態で、問題に向き合える自分」
を少しずつ作っていきます。
(4)「自分の覚悟」と向き合う最後の期間
冬は、「受験生としての自分」と真正面から向き合う最後の期間でもあります。
- 「ここまで本気を出し切れたか?」
- 「不安から逃げていないか?」
- 「合格したいと言いながら、行動が追いついていないのでは?」
そうした問いを、塾の先生や仲間、家族との会話の中で何度も突きつけられる時期です。
冬期講習や合宿は、勉強をする場であると同時に、
「自分の受験を、自分の責任で引き受ける」
という覚悟を固める場でもあります。
2.志望校へ合格するための「冬の心意気」
では、その冬をどういう心意気で過ごすべきなのか。
ここからは、志望校合格のために大切にしてほしい「冬のマインド」を整理していきます。
(1)「合格したい」から、「合格するまでやる」に変える
多くの受験生は、口ではこう言います。
「◯◯高校に行きたいです」
もちろん、それ自体は素晴らしい目標です。
しかし、本当に合格を引き寄せる言葉は、少し違います。
「◯◯高校に合格するまで勉強します」
「合格できるかどうかではなく、合格できる自分になるまでやり切る」
「したい」から「する」への変換。
この一歩を冬に踏み出してほしいのです。
「やるか、やらないか」を迷っている時間は、もうありません。
やると決めるか、決めないか。その違いが、冬の密度を大きく分けます。
(2)「不安」は消さなくていい。ただ、行動で上書きする
受験直前の冬、不安がゼロの受験生はほとんどいません。
- 「もし落ちたらどうしよう」
- 「今からじゃ間に合わないんじゃないか」
- 「あの時もっとやっておけばよかった」
こうした気持ちは、むしろ 真剣に受験と向き合っている証拠 でもあります。
大切なのは、不安を「消そう」とすることではなく、
不安を感じながらも、手を動かし続けること
です。
- 不安になったら、英単語帳を10個だけ進める
- 夜眠れなくなりそうなら、数学の計算問題を10問だけ解いてみる
- 過去問の点数が悪くても、まずは間違い直しだけは必ず終わらせる
感情はコントロールできなくても、「行動」は自分で選べます。
冬の合否を分けるのは、この「不安と行動の付き合い方」です。
(3)「弱点から逃げない」勇気を持つ
受験生の多くは、どうしても得意科目・得意単元に逃げてしまいがちです。
- 英語が得意だから、つい長文ばかり解いてしまう
- 数学が好きだから、関数ばかりやって図形を後回しにする
もちろん、得意を伸ばすのも大事です。
しかし、冬はそれ以上に、
「合格点を下回らないための弱点つぶし」
が重要になります。
- 解き方が曖昧な単元
- ワークの空欄をそのままにしているページ
- 「後でやろう」と付箋だけ貼って放置している問題
こうした「見て見ぬふり」をしてきた部分と、冬のうちに向き合う。
これはとても勇気のいることですが、合否を分ける大きなポイントです。
(4)「量」だけでなく「質」にこだわる
冬になると、「1日何時間勉強するか」が話題になりがちです。
- 「今日は10時間勉強した」
- 「合宿で1日12時間勉強した」
この「量の自慢」は、ある意味ではモチベーションにもなりますが、
それだけでは足りません。
大切なのは、
「その時間で、何をどれだけ身につけたか」
です。
- 同じ2時間の数学でも、
- ただ問題をなぞるだけの2時間と
- 間違いを分析して、解き直しまで含めた2時間
では、得られる力がまったく違います。
冬の心意気として持っていてほしいのは、
「勉強時間を稼ぐ」のではなく、「できることを増やす」意識
です。
(5)「最後まで伸びる自分」を信じる
模試の判定や過去問の点数を見て、
心が折れそうになる瞬間は、誰にでも訪れます。
そんなときに必要なのは、
「ここから先も、まだ伸びる可能性がある自分」
を信じられるかどうか。
現場で見ていると、
1月・2月でも、驚くほど点数を伸ばす子は確かにいます。
- 「苦手単元だけに絞って徹底的にやり直した」
- 「過去問の分析とミスの修正に徹した」
- 「生活習慣を整えて、集中力が持続するようになった」
こうした変化が噛み合ったとき、
最後の1〜2か月でも、偏差値が3~5伸びることは決して珍しくありません。
「もう無理だ」と自分に言ってしまった瞬間、伸びる可能性はゼロになります。
だからこそ、冬はぜひ、
- 判定がどうであっても、
- 過去問の点数が低くても、
「それでも、ここから伸びる自分」を信じ続ける心意気を持っていてほしいのです。
3.教科別・単元別「やることリスト」
ここからは、実際に冬に何をやるべきかを、
科目別・単元別に具体的な「やることリスト」として整理していきます。
◆ 英語:単語・文法・長文・英作文の4本柱
1)英単語・熟語
目的:長文・リスニング・英作文の土台を固める
やることリスト
- 受験用単語帳(または学校・塾指定の単語リスト)を
- 1日30〜50語ペースで「日本語→英語」でチェック
- 曖昧なものには印をつけ、翌日再テスト
- 熟語(take off, look for など)のチェック
- 「熟語だけのミニテスト」を自作する or 塾のプリントを活用
- 「読むだけ」「見るだけ」をやめ、
- 必ず 「書いて覚える」 セッションを1日5〜10分入れる
2)文法・構文
目的:穴埋め・並べ替え・英作文に直結する文法力を完成させる
優先単元の例
- 時制(現在・過去・現在完了)
- 助動詞(can, must, have to など)
- 受動態
- 不定詞・動名詞
- 比較
- 関係代名詞(who, which, that)
- if / that を使った文
- there is / are 構文
やることリスト
- 文法問題集を「通しで1周」ではなく、
- 模試や過去問で間違えた単元から優先してやる
- それぞれの単元で、
- 「よくあるミス」をノートにまとめる
- 例文を2〜3個、自分で書いてみる(日本語→英語)
- 並べ替え問題が多く出る地域なら、
- 過去問や入試対策テキストで、並べ替え問題だけを集中演習する日を作る
3)長文読解
目的:入試本番と同じレベルの文章を、時間内に読み切る力をつける
やることリスト
- 志望校の過去問の長文を、
- 「時間を測って」解く(最初は制限時間+5分でOK)
- 解いたあとは、
- 内容一致問題の選択肢を1つずつ和訳し、「なぜ×か」を説明できるようにする
- 分からなかった単語・熟語を必ずリスト化
- 教科書レベルの長文は、
- CD音声(または音読)でスラスラ読めるレベルに仕上げておく
- 「和訳→英語」の練習も、1段落だけでよいので取り入れる
4)英作文・ライティング
目的:出題形式に合わせた「テンプレ」を冬のうちに確立する
やることリスト
- 志望校・英検等の形式に合わせて、
- よく出るテーマ(部活動・将来の夢・スマホ・SNS・勉強法など)をリストアップ
- それぞれのテーマで、
- 3文構成・4文構成など「型」を決める
- 自分なりの「使いまわしできる表現」をノートにまとめる
- 塾の先生に添削してもらう前提で、
- 週に2本は英作文を書く
- 添削されたら、必ず「書き直し」までセットで行う
◆ 数学:頻出単元を「反射で解ける」レベルに
1)計算・方程式・関数
目的:落としてはいけない「基本問題」を確実に取る
やることリスト
- 正負の数・文字式・方程式文章題の基本問題を、
- 5分〜10分のミニテスト形式で毎日やる
- 一次関数(比例・反比例含む)の
- グラフの読み取り
- 直線の式の求め方
- 交点の座標の求め方
を、パターンごとに整理しておく
- 計算問題は、
- 「途中式を丁寧に書く」ことを冬のうちに習慣化
- 1問にかけていい時間の目安を決めておく(例:計算は1問1分以内)
2)図形(平面図形・空間図形・証明)
目的:手を動かす回数を増やし、図を描くクセをつける
優先単元の例
- 作図(垂直二等分線・角の二等分線など)
- 三角形の合同・相似
- 円周角・弧の長さ・扇形の面積
- 立体の体積・表面積
- 三平方の定理
やることリスト
- 証明問題は、
- 「何を証明するのか」をまず図に書き込むクセをつける
- 条件と結論に線や印をつけ、対応関係を整理する
- 相似・三平方は、
- 図の「どの辺とどの辺が対応しているか」を色ペンで分けてチェック
- 作図問題は、
- 過去問・問題集から10〜15題ピックアップし、
- 冬のうちに一通りすべてのパターンを経験しておく
3)データの活用・確率
目的:比較的短時間で点数を稼げる単元として仕上げる
やることリスト
- ヒストグラム・箱ひげ図・平均・中央値・最頻値の問題を、
- まとめて10〜20題ほど解いておく
- 確率は、
- 樹形図を書く問題
- 場合の数を整理する問題
を混同していないか確認
- 「全部の場合の数」を数えたうえで、
- 「有利な場合」を数える
という手順を、声に出して確認しながら解く練習をする
- 「有利な場合」を数える
◆ 国語:読解の「型」と漢字・語彙の徹底
1)漢字・語句・文法
目的:短期間で確実に点を拾える分野を取りこぼさない
やることリスト
- 漢字は、
- 過去問・問題集で出たものをノートにまとめる
- 1日10問の「漢字テスト」を自分に課す
- 四字熟語・ことわざ・慣用句も、
- 実際に入試で出たものから優先的に覚える
- 文法(品詞・活用・敬語など)は、
- 「説明できるか」ではなく「選択肢で正しく選べるか」を重視し、問題演習中心で
2)説明的文章(論説文・評論)
目的:筆者の主張と、段落ごとの役割を掴む力をつける
やることリスト
- 説明文を読むときは、
- 各段落に「一言メモ」を書く(例:「問題提起」「具体例①」など)
- 接続語(しかし・つまり・たとえば など)に下線を引き、
- 文と文の関係を意識して読む
- 設問は、
- 「何を聞かれているのか」を自分の言葉で言い換えてから解く
(例:「このときの『それ』とは?」→直前の文を読み直す)
- 「何を聞かれているのか」を自分の言葉で言い換えてから解く
3)文学的文章(物語文)
目的:登場人物の心情変化と場面の流れを追う力をつける
やることリスト
- 登場人物の感情を表す言葉(驚いた・ほっとした・悔しい など)に線を引き、
- どの出来事がきっかけになっているかを矢印で結ぶ
- 会話文・地の文(説明)の役割を意識する
- 会話文:感情・人間関係の変化
- 地の文:状況説明・心情の補足
- 心情をたずねる記述問題は、
- 「理由+気持ち」の2つを必ずセットで書く練習をする
4)古文・漢文(出題がある地域の場合)
目的:頻出語と基本的な文法だけでも押さえておく
やることリスト
- 古文単語は、
- 「現代と意味が違うもの」だけでも優先して覚える(あはれ・いと・いみじ など)
- 助動詞(〜む・けり・べし など)は、
- 意味を「なんとなく」ではなく「現代語で説明できる」レベルに
- 教科書に載っている古文は、
- 現代語訳とセットで音読しておく
◆ 理科:頻出単元を「まとめ+典型問題」で固める
理科は、「覚える+理解する+計算する」 のバランスが大事な科目です。
冬は特に、出題頻度の高い単元を重点的に。
1)物理分野(光・音・力・電流・エネルギーなど)
やることリスト
- 光:
- 反射の法則・屈折・凸レンズの作図を、図を描きながら復習
- 音:
- 波の性質(振幅・波長・周波数)を用語レベルで整理
- 力:
- 合成力・分解力・てこの規則を、公式だけでなく図で説明できるようにする
- 電流:
- オームの法則の計算
- 直列・並列回路の電圧・電流・抵抗の関係を、典型パターンごとに整理
2)化学分野(物質の性質・化学変化・イオンなど)
やることリスト
- 状態変化・溶解度・質量保存の法則など、
- グラフや図が絡む問題を優先的に演習
- 化学反応式は、
- よく出るものを10〜15個に絞って確実に書けるようにする
- イオン:
- +と−の電気をもつ粒子のイメージを図で整理
- 電池・電気分解の模式図を、自分で描けるよう練習
3)生物・地学分野(植物・動物・天気・天体など)
やることリスト
- 植物・動物:
- 光合成・呼吸・消化・血液の循環など、「しくみ」を図で説明できるように
- 生態系:
- 食物連鎖・物質の循環・環境問題など、言葉の意味を整理しておく
- 天気:
- 前線の種類・気圧配置・等圧線の読み取りを、典型問題で確認
- 天体:
- 月の満ち欠け・太陽の動き・星の見え方など、「図を描いて説明する」練習をする
◆ 社会:暗記だけでなく「流れ」と「資料読み取り」を意識
1)地理
やることリスト
- 日本地理:
- 地方ごとの特色(産業・気候・地形)を、白地図に書き込みながら復習
- 世界地理:
- 大陸・気候帯・代表的な国と産業を「セット」で覚える
- 資料読み取り:
- 統計グラフ・地図記号・雨温図の問題をまとめて演習する日を作る
2)歴史
やることリスト
- 時代ごとの「まとめ年表」を自作する
- 例:飛鳥/奈良/平安/鎌倉/室町/安土桃山/江戸/明治/大正/昭和/平成
- 「出来事→人物→年号→キーワード」の4点セットで整理
- すべてを年号暗記する必要はないが、
- 例えば「1868年 明治維新」など、よく出るものだけは押さえる
- すべてを年号暗記する必要はないが、
- 資料問題(絵・写真・グラフなど)は、
- 過去問や資料集からピックアップして、毎日1問ずつでも触れておく
3)公民
やることリスト
- 憲法・三権分立・選挙など、
- 「説明問題に出やすいところ」を優先
- 経済分野(税金・金融・景気など)は、
- 用語の意味を自分の言葉でノートに整理
- 国際分野:
- 国連・EUなどの機関名と役割を「穴埋め」形式で覚える
4.冬を「やり切った」と言えるために
ここまで、冬の意義・心意気・具体的なやることリストを見てきました。
最後に、冬を終えたときに自分に聞いてほしい問いがあります。
- 「この冬、弱点から逃げなかったか?」
- 「結果が怖くて、過去問や模試から目をそらさなかったか?」
- 「合格を“お願い”するのではなく、“準備して迎えに行く”勉強ができたか?」
答えは、完璧に「はい」でなくても構いません。
でも、「あのとき本気でやった」と胸を張れる冬を過ごせたかどうかは、
受験の結果以上に、その後の人生に響いてきます。
個別指導塾としてできることは、
- 一人ひとりの状況に合わせて、
- 合格までの道筋を一緒に描き、
- 冬を「ただの追い込み」ではなく「成長の季節」に変えていくこと
だと考えています。
受験目前の冬。
不安もプレッシャーもひっくるめて、
「ここからまだ伸びる自分」を信じて、最後まで走り切りましょう。
