皆さん、こんにちは。
創心館の藤井です。
今回は、2025年度・立命館大学の日本史の入試問題〔Ⅲ〕の解説を、特別速報版でお届けします!
では、さっそく解説に入りましょう!
〔Ⅲ〕近現代の文学・学問



【空欄補充問題の解説!】
A
正解は、西田幾多郎です。
本文中に、西田幾多郎の代表作である『善の研究』とありますので、ここは落とせない問題ですね。
「幾多郎」を「幾太郎」としないように注意しましょう。
B
正解は、古寺(巡礼)です。
和辻哲郎の代表作ですが、この問題で差がつく可能性がありますね。
C
正解は、柳田国男です。
本文中に、「民俗学者」「民俗学を集大成」とありますので、これは落とせませんね。
柳田国男の代表作として、『遠野物語』があります。
D
正解は、常民です。
これはなかなか難しいと思いますが、柳田国男について欠かせない用語ですので、ぜひ覚えておきましょう。
E
正解は、おもろさうし(またはおもろそうし)です。
伊波普猷という人物は、あまりなじみがないと思いますし、古琉球の歌謡である「おもろそうし」は難易度が高いですね。
F
正解は、ユーカラです。
本文中に、「アイヌが伝えてきた長編叙事詩」とありますが、これも難易度が高い用語です。
北海道や沖縄の伝承文学まで押さえておくことも大事だよ、という大学からのメッセージですね。
G
正解は、小(新聞)です。
小新聞とは、江戸時代の瓦版の流れをくむ新聞のことで、大新聞と比較されます。
H
正解は、読売(新聞)です。
日本初の小新聞で、江戸時代の瓦版の系統をひいていました。ちなみに瓦版は江戸時代には「よみうり」と呼ばれていました。
I
正解は、朝日(新聞)です。
朝日新聞は現在でも発行されている有名な新聞ですが、東京と大阪にそれぞれ本社があります。
情報化社会における新聞の役割が明治時代で重要な位置を占めているわけですが、こうした「情報の歴史」も大切になってきますね。
ここで、入試で必要な「新聞」についてまとめておきましょう。
入試で必要な「新聞」を押さえよう!
(1)大新聞と小新聞の違いは?
①大新聞…政治評論が中心で、漢文調で書かれている。士族出身の記者が多かった。
②小新聞…報道が中心で、ふりがなつきの口語体で書かれている。庶民出身の記者が多かった。
(2)入試でよく出る「新聞」はコレだ!
①横浜毎日新聞(1871年創刊)…日本初の大新聞
②東京日日新聞(1872年創刊)…政府系の大新聞・福地源一郎が創刊・現在の毎日新聞
③郵便報知新聞(1872年創刊)…立憲改進党系の大新聞・前島密が創刊・現在の報知新聞(スポーツ報知)
➃読売新聞(1874年創刊)…日本初の小新聞・江戸時代の瓦版の系統をひく
⑤万朝報(1892年創刊)…黒岩涙香が創刊・日露戦争開戦時は非戦論を唱えたが、のちに主戦論に転換
【設問の解説!】
(a)
正解は、いの『遠野物語』です。
あの『風土』は、和辻哲郎の著作です。
うの『武蔵野』は、自然主義文学者の国木田独歩の作品です。
えの『種蒔く人』は、小牧近江らの文芸雑誌であり、プロレタリア文学の先駆ともいえる雑誌です。
(b)
正解は、あの尾崎紅葉です。お宮と貫一の物語である『金色夜叉』で有名ですね。
いの幸田露伴は、『五重塔』などの作品があり、尾崎紅葉とともに「紅露時代」を築きました。
うの二葉亭四迷は、写実主義の代表的作品である『浮雲』を著し、言文一致体の近代小説の基礎を作りました。
えの山田美妙は、1885年に硯友社を結成した人物であり、代表作に『夏木立』があります。
(c)
正解は、いの『一握の砂』です。
『一握の砂』は石川啄木の歌集です。
あの『こころ』、うの『明暗』、えの『それから』はすべて夏目漱石の作品です。
ではここで、明治時代の文学についてまとめておきましょう。
ジャンル別で覚えていきましょう!
明治時代の文学はジャンル別で覚えよう!
(1)戯作文学(明治初期)…江戸時代の小説の継承
仮名垣魯文『安愚楽鍋』『西洋道中膝栗毛』
(2)政治小説(明治10年代)…自由民権運動の宣伝
矢野竜溪『経国美談』・末広鉄腸『雪中梅』・東海散士『佳人之奇遇』
(3)写実主義(明治20年頃)…近代文学の誕生・言文一致体
①坪内逍遙『小説神髄』(1885年)『当世書生気質』
②二葉亭四迷『浮雲』『あひびき』
③尾崎紅葉『金色夜叉』・山田美妙『夏木立』…硯友社『我楽多文庫』
➃幸田露伴『五重塔』→尾崎紅葉とともに「紅露時代」を現出
(4)ロマン主義(日清戦争頃)…感情の優位・自我や個性の尊重
①『文学界』(北村透谷)・『明星』(与謝野鉄幹)・森鷗外『舞姫』『即興詩人』
②樋口一葉『にごりえ』『たけくらべ』・徳富蘆花『不如帰』・泉鏡花『高野聖』
③島崎藤村『若菜集』(日本の和歌や俳句から新体詩をめざす)・与謝野晶子『みだれ髪』
➃正岡子規…俳句革新運動→『ホトトギス』(俳句・正岡子規から高浜虚子へ)
短歌革新運動→『アララギ』(和歌・長塚節・伊藤左千夫)
(5)自然主義(日露戦争頃)…フランスやロシア文学の影響・客観的描写
①国木田独歩『武蔵野』『牛肉と馬鈴薯』・田山花袋『蒲団』『田舎教師』
②島崎藤村『破戒』(ロマン主義から転向)・石川啄木『一握の砂』『悲しき玩具』
(6)反自然主義(明治末期)
余裕派(夏目漱石『吾輩は猫である』・森鷗外)・耽美派・白樺派・『青鞜』など
(d)
正解は、あの新人会です。
新人会の他に民本主義を支持する学者・思想家らによる黎明会もありました。
いの建設者同盟は、1919年に結成された早稲田大学などの学生運動団体です。
うの猶存社は、1919年に大川周明らによって結成された日本初の国家社会主義団体です。
えの社会主義研究会は、安部磯雄・片山潜・幸徳秋水らによって結成された社会主義団体です。
(e)
正解は、えの『改造』です。
『改造』は1919年に山本実彦らによって発行された総合雑誌で、大正デモクラシーの根幹となった雑誌ですので、必ず押さえておきましょう。
あの『世界』は、1946年に岩波書店から発刊された雑誌です。
いの『万朝報』は、黒岩涙香らが発刊した新聞です。
うの『思想の科学』は、1946年に丸山真男らによって発刊された雑誌です。あまりなじみがないかも知れませんね。
(f)
正解は、いの『怪人二十面相』です。
江戸川乱歩は、大正時代から昭和時代初期にかけて活躍した推理小説家として数多くの作品を残しました。
あの『刺青』は、耽美派の作家として有名な谷崎潤一郎の作品です。
うの『恩讐の彼方に』は、新思潮派の作家である菊池寛の作品です。
えの『仮面の告白』は、三島由紀夫の作品です。
あまりなじみのない人物や作品もありますが、問題を通していろいろな知識を入れていきましょう。
(g)
正解は、松本清張です。
松本清張は、1950年代に社会派推理小説ブームを巻き起こした小説家で、『点と線』の他にも『砂の器』など数多くの作品を残しています。
大問〔Ⅲ〕は大正時代~昭和時代にかけての文学や研究など、受験生が手薄になりやすい分野が盛りだくさんでした。
ここで、受験生が特に手薄になりやすい、大正時代から昭和時代初期にかけての「学問と芸術」についてまとめておきましょう!
大正時代~昭和時代初期の学問と芸術はコレを押さえよう!
(1)思想
①デモクラシー…吉野作造(民本主義・『中央公論』に論文を掲載)・美濃部達吉(天皇機関説・のち処分)
②小日本主義…石橋湛山(『東洋経済新報』記者・植民地放棄論を唱える)
③マルクス主義…河上肇『貧乏物語』・野呂栄太郎『日本資本主義発達史講座』
(2)学術
①理化学…理化学研究所など・本多光太郎(KS磁石鋼)・八木秀次(八木アンテナ)
②医学…野口英世(黄熱病の研究)
③歴史学…津田左右吉(『神代史の研究』など)
➃哲学…西田幾多郎(『善の研究』)
⑤倫理学…和辻哲郎(西洋倫理学・『古寺巡礼』『風土』)
⑥民俗学…柳田国男(常民の研究・『遠野物語』)・伊波普猷(沖縄の研究)・南方熊楠
(3)文学
①耽美派(『スバル』)…谷崎潤一郎『痴人の愛』・永井荷風『腕くらべ』
②白樺派(『白樺』・学習院出身者中心)
○武者小路実篤『その妹』(宮崎・埼玉に「新しき村」を建設)
○志賀直哉『暗夜行路』・有島武郎『或る女』・倉田百三『出家とその弟子』
○高村光太郎『智恵子抄』(彫刻や近代詩)・柳宗悦(民芸運動を展開・朝鮮美術史の研究)
③新思潮派(『新思潮』・東大系の一派)
芥川龍之介『羅生門』『鼻』・菊池寛(『恩讐の彼方に』・文藝春秋を創刊)
➃新感覚派(『文芸時代』)…横光利一『日輪』・川端康成『伊豆の踊子』
⑤大衆小説…中里介山『大菩薩峠』・吉川英治『宮本武蔵』・大佛次郎『鞍馬天狗』
⑥プロレタリア文学…『種蒔く人』(1921年)
→『文芸戦線』(1924年)…葉山嘉樹『海に生くる人々』
『戦旗』(1928年)…小林多喜二『蟹工船』・徳永直『太陽のない街』
(4)美術
①西洋画…二科会(1914年)・春陽会(1922年)
→岸田劉生『麗子像』・安井曽太郎『金蓉』・梅原龍三郎『紫禁城』
②日本画…日本美術院再興(1914年・横山大観)
→院展(日本美術院展覧会)開催…文展に対抗
(5)音楽
山田耕筰(日本交響楽協会)・近衛秀麿(新交響楽団)・三浦環(オペラ)・レコードの普及
(6)演劇
①新劇…芸術座(1913年・島村抱月・松井須磨子)・築地小劇場(1924年・小山内薫・土方与志)
②新国劇(大衆演劇)…沢田正二郎(オッペケペー節)→辰巳柳太郎・島田正吾へ
③軽演劇…榎本健一(喜劇王)・古川緑波(笑いの王国)
おわりに
では、これで2025年度の立命館大学の日本史の解説はすべて終わりになりますが、いかがだったでしょうか。
受験生が手薄になりやすい内容でしたので、なかなか全問正解というわけにはいかなかったのではないかと思います。
江戸川乱歩や松本清張など、あまり聞き覚えのない小説家も登場していますが、
あくまでも「取れる問題を落とさない」ということです。
知らなかったら思い出しようもないわけですが、2026年度の受験生は、問題を通してどんな内容が出題されているかはもちろんのこと、教科書では扱っていない内容も、知識や教養として身につけておくことは決して損にはなりません。
問題を通して、様々な知識を教養にする。
これこそが日本史(だけではありませんが)の勉強といえますね。
このあとも特別速報版として、どんどん解説ブログをアップしていきますので、どうぞお楽しみに!
本日も創心館のブログにおいでいただき、ありがとうございました。
文責:藤井 宏昌