昨日の夜、私は一人の小学5年生の生徒が見せてくれた「やり抜く力」に心から感動しました。
この日、彼が取り組んでいたのは、これまでに間違えた問題に付箋が貼られた計算ドリル。
授業が終わる午後6時45分。ほとんどの生徒が帰宅していく中、彼はまだ席を立たず、塾に残っていました。
「先生、このドリルが終わらないと新しいドリルがもらえないから、今日中に、このやり直しを全部終わらせたい!」
私は「これを今日中に終わらせるのは、結構時間かかるよ」と伝え、帰りが遅くなると保護者様が心配されると思いお電話をかけて帰宅が遅くなりそうなことをお伝えしました。
Sくんには「お母さんに電話しといたよ」と声をかけました。
彼は短く「うん」とだけ答え、すぐに鉛筆を走らせ始めました。
「新しいドリルをもらう」という明確な目標が、彼の集中力を一気に高めていたのでしょう。
Sくんは黙々と問題を解き進め、何度も消しゴムで書き直しながら、小さくため息をつき、それでもまた鉛筆を持ち直して集中を続けました。その姿からは、「今日中に終わらせたい」という強い意志が伝わってきました。
午後8時を過ぎたころ、私は声をかけました。
「お腹すいてないの?」
彼の顔には疲労の色が浮かび始めていましたが、それでも手は止まりません。
「もう遅いから、続きは明日にしないか?」
体調を気遣って帰宅を促すと、Sくんはまっすぐに私を見て答えました。
「大丈夫。今日中に終わらせる!」
その言葉には、揺るぎない決意がこもっていました。彼は背筋を伸ばし、時折大きく深呼吸をしながら、最後まで鉛筆を動かし続けました。「自分で決めたことをやり遂げる」――その意志が彼を支えていたのです。
そして午後9時。最後の問題を解き終えた彼は、笑顔で「終わった!」と言いました。
その顔には、疲れよりもはるかに大きな達成感があふれていました。
この3時間は、ただ問題を解いただけの時間ではありません。彼にとってそれは、逃げずに苦手と向き合った時間であり、自分との約束を守り抜いた時間でした。そして何よりも、「目標を達成するためには、多少の無理をしてでもやり遂げる」という、人生で最も大切な力を身につけた時間でもありました。
学力を伸ばすことはもちろん大切ですが、それ以上に「自分で目標を立て、最後までやり抜く力」を育てることこそが教育の本質だと、改めて感じさせられました。この経験は、きっと彼のこれからの人生を支える大きな力になるでしょう。
Sくん、本当によく頑張りましたね。その頑張りを、次のステップへの自信につなげていきましょう。