人は皆それぞれ異なる
「子育てに正解はない」というのは、日々子育てをされている親御さんにとっては至極当たり前のように思われると思います。「〇〇なときには××したほうがいいよ」と言われてその通りにしてみても、うまくいくこともあれば、うまくいかないこともあります。なぜそうなるのかと言えば、子どもはロボットではなく1人1人違った人間だから、という以外ありません。残念ながら数学の数式のように、いつでも同じ結果になるという声掛けや手立てというものはありません。それは子育てに限らず、人間関係すべてにおいて当てはまります。個人という変数が個人の数だけ存在するので、同じことをしても同じ結果になるとは限らないのです。さらに、同じ個人であったとしても成長していくにつれて、これまでと同じ対応ではうまくいかなくなってくるものです。
お互いの関係性が基本
そうはいっても、統計的に見ると人間関係や子育てにおいて、一定の変化を起こす傾向が見られる関わり方というのは、確かに存在します。例えば、「褒められると嬉しいから、褒められるような行動が増える」というのは、行動科学的には間違いではありません。しかし、人間には気分というものが存在しますし、誰に、どのように、どのタイミングで、どれくらい褒められるか、といった具合に複数の要因(変数)がありますので、いつでも同じ結果になるわけではないのです。人と人との関係性という側面を抜きにして、ただこういう声掛けをすればいいというわけにはいきません。「この人に言われるのはいいけど、あの人に言われるのはイヤ」という経験は、我々大人にだってあるはずです。
手助けと過保護の線引き
子育てに関する相談の中で語られることの一つとして、「どうしたら〇〇ができるようになりますか」という問いがあります。その問いはもちろん子どもの健全な成長を願って発せられているのですが、中には親が先々の不安を先取りして「これができていないとこの子が将来困るので身につけさせたい」という思いが潜んでいることもあります。それは決して悪いことではないのですが、度が過ぎると子どもの自立を妨げる要因になることもあるので注意が必要です。なぜなら、親が先取りして声掛けをしすぎると、子どもは「親が言ってくれるからいいや」と、ますます親に依存するようになるからです。
子どもが自立していくには、自分で考えたことをやってみてその結果から学んでいく、トライ&エラーがほどほどに必要と言われています。ところが、親の心配から来る声掛けが多すぎると、確かに子どもは失敗しないかもしれませんが、失敗から学ぶ機会も同時に失われます。もちろん子どもの発達段階にもよりますが、「〇〇はやった?」などの声掛けは徐々に減らしていくことが、子どもの自立につながります。
子どもの自立を信頼する
とはいえ、それにはかなりの忍耐力が親側に求められます。たとえば、ちょうちょ結びに手間取っている、靴下がうまく履けない/脱げない、といった場面で何分待てるでしょうか。勿論状況にもよりますが、親が急いでいる(と感じている)ときほど、子どもは自分のペースでやりたがります。そこでギリギリまで待つのは本当にしんどいことです。そこで支えとなるのが、子どもとの信頼関係です。もっといえば、親が子どもの自立を信頼するまなざし、とも呼べるかもしれません。このまなざしを持って接することで、子どもは親を自分のことを信頼してくれている人と認識し、自立に向けて成長していきます。もちろん、けがなど緊急性の高い場合は親が率先して助ける必要がありますが、基本的には子どもが成長するにしたがって、援助を訴えてきたときに助けてあげるのが望ましいです。
関係性を観察する
子育て相談に来た方に対して、子どもへの関わり方についての助言を行った際、すぐに変化が現れないと「やっぱり効果が出ない」と思って、すぐにやめてしまう方がおられます。あくまで一般論ですが、新しい関わり方をまず2週間ほどやってみて子どもの様子を観察する、というのがお勧めです。観察することで自ずと、子どもとの距離が生まれす。距離が生まれることで、親から子への応答、子から親への応答といった、「関係性」に目を向けることができます。この関係性に注目することで、子どもに応じた関わり方を工夫していくことができます。
おそらく臨床心理学的なカウンセリング業務に携わっている人は多かれ少なかれ、この「関係性」に注目して相談を進めていくことが多いのではないでしょうか。相互作用と言ってもいいかもしれませんが、一方にのみ焦点を当てて原因をさぐるのではなく、個人と個人、個人と集団、個人と環境といった様々な関係の中で生じる相互作用に目を向けて、何が起きているのか、どういう繋がりで困りごとが生じているのか、といったことを考えていきます。もし子育て等で困りごとがあれば、学校等に来ているカウンセラーに相談してみるのもひとつです。