近年、ChatGPTをはじめとする生成AIが急速に普及し、私たちの生活は大きく変わりつつあります。
分からないことを質問すれば、わずか数秒で答えが返ってくる。難しい文章を要約したり、数学の問題を解説したり、英作文を添削したりすることもできます。
こうしたAIの進化は、教育の世界にも大きな影響を与えています。
しかし、ここで一つ疑問が生まれます。
「AIを使って効率よく勉強することは、本当に学力の向上につながるのでしょうか?」
今回は、実際の研究結果も紹介しながら、子どもたちの学習におけるAIとの付き合い方について考えてみたいと思います。
■ AIを使うと、かえって学力が下がる?
2025年、アメリカのペンシルベニア大学などの研究者によって、興味深い研究結果が発表されました。
約1,000人の高校生を対象に、数学の学習で生成AIを使用した場合の影響を調査したものです。
研究では、一般的なChatGPTに近いAIを利用した生徒は、問題演習中の成績が向上しました。
ところが、その後AIを使用できない状態で試験を行うと、AIを使用しなかった生徒と比較して、成績が約17%低くなったのです。
一方、直接答えを教えず、ヒントを与えるように設計されたAIを使用した生徒には、同様の大きな悪影響は見られませんでした。
この研究から分かるのは、AIを使うこと自体が悪いのではなく、どのように使うかによって学習効果が大きく変わる可能性があるということです。
もちろん、一つの研究結果だけですべての学習場面を判断することはできません。しかし、教育に携わる立場として、非常に重要な示唆を含んでいると感じます。
■ 省略してよい時間と、省略してはいけない時間
私は、学習におけるAI活用について、次のように考えています。
「調べるための時間は省略してもよい。しかし、考えるための時間は省略してはならない。」
例えば、英語の勉強中に分からない単語が出てきたとします。
これまでは辞書を引いて意味を確認していましたが、AIを使えば意味だけでなく、例文や関連表現まで瞬時に調べられます。
これは非常に便利な使い方です。
一方、数学の問題が分からないからといって、問題文をAIに入力し、出てきた解答をそのままノートに写す行為はどうでしょうか。
確かに宿題は早く終わります。しかし、それでは問題を解くための思考力は身につきません。
また、国語の読解問題で本文から答えの根拠を探す時間は、決して無駄な時間ではありません。その過程自体が読解力を鍛える大切な学習です。
つまり、重要なのは単純に時間を短縮することではなく、その時間が学力を身につけるために必要な時間なのかを見極めることです。
■ AIは答えを教える先生ではなく、考えるための補助役に
では、子どもたちはAIをどのように活用すればよいのでしょうか。
例えば、次のような使い方が考えられます。
- 数学の問題で、答えではなく最初のヒントだけをもらう
- 自分で書いた英作文を添削してもらう
- 理科の難しい内容を身近な例に置き換えて説明してもらう
- 学習した内容について確認テストを作ってもらう
これらに共通するのは、AIが生徒の代わりに考えるのではなく、生徒自身の理解を助けているという点です。
ただし、AIの回答が必ず正しいとは限りません。重要な内容については、教科書などで確認する習慣も必要です。
また、すでに基礎知識を身につけている大人と、これから知識や思考力を習得していく子どもとでは、AIに任せてよい範囲も異なります。
だからこそ、特に小中学生の段階では、AIに頼りすぎず、自分の頭で考える経験を十分に積むことが大切だと思います。
■ 勉強の目的は、答えを出すことではない
AIの進化によって、これまで多くの時間を費やしていた作業を短時間で終えられるようになりました。
この技術を教育に活用しない手はないと思います。
しかし、勉強の目的は、目の前の問題に正解することだけではありません。
なぜその答えになるのかを考え、理解し、最終的には自分一人の力で問題を解けるようになることです。
AIを使えば、難しい問題でも簡単に答えを手に入れられるかもしれません。しかし、AIが問題を解けることと、自分自身が問題を解けることは、まったく別の話です。
創心館でも、単に正解を出すことだけでなく、生徒自身が考え、理解する過程を大切にしていきたいと考えています。
AIに任せるべきは「作業」であって、「思考」ではない。
AIによって生まれた時間を、考える時間の削減に使うのではなく、より深く理解し、学力を伸ばすために活用してほしいと思います。
便利な技術が次々と生まれる時代だからこそ、私たち教育者も、子どもたちに本当に身につけてほしい力とは何なのかを考え続ける必要があるのではないでしょうか。
参考資料
- Bastani et al.(2025)「Generative AI without guardrails can harm learning: Evidence from high school mathematics」PNAS
https://doi.org/10.1073/pnas.2422633122 - OECD(2026)「OECD Digital Education Outlook 2026」
https://www.oecd.org/en/publications/oecd-digital-education-outlook-2026_062a7394-en.html

