【シリーズ第1回】子どもが将来の夢を語るには

【シリーズ臨床心理士のつぶやき】

いよいよ受験が近づいてきました。受験は子どもたちにとっての進路選択でもあり、今後の人生に少なからず影響を与えます。そこで、今回は将来の夢についてのお話です。

夢は実現しなくても構わない

子どもが夢を語れるかどうかは当時の時代背景が大きく影響してくると思いますし、親の価値観や生き方も影響してくるでしょう。近代化以前や戦時中は子どもに職業を選ぶ自由はほとんどありませんでしたが、戦後から様々な職業選択が可能になったと思います。しかし、夢の職業に就くのは簡単ではありませんよね。私は、夢は必ず実現させなければ意味がないと思っているわけではありません。どちらかというと、実現してもしなくても夢に向かってどのような経験を積んだのか、そこからどういう自分自身を知ることができたのか、ということのほうが大切だと考えています。例えば、甲子園を目指しても実際に行ける高校球児は限られ、そこからさらにプロ野球選手になれる人はもっと少数です。だからといって、「野球なんてやるだけ時間の無駄」と言えるでしょうか?何かに向かってひたむきに頑張ることは、必ずその人自身の成長につながると私は考えています。なぜなら、何かに向かって一生懸命頑張るということは、「どうしてこれができないんだろう?どうすればできるようになるのだろう?」という試行錯誤や自問自答を繰り返すからです。それが、自分自身の気づきや自己コントロールに繋がると思います。

現実を教えることの難しさ

大人になってもずっと夢を追い続けて生きていける(衣食住に困らないという意味)ならいいかもしれませんが、なかなかそれを実現するのは容易ではありません。大人になるにつれて世の中のことが分かるようになると、現実の厳しさを知るようになります。特に、就職超氷河期と言われた親世代にとっては、安定した仕事に就くことがある意味夢のようなことだったかもしれません。だから、子どもが将来困らないようにこうしておいたほうがいいと、安定を求めたくなるでしょう。また、子どもの夢が非常にお金のかかることだと、応援してあげたくても難しい場合もあります。我々大人は、子どもが夢を語るとつい、「じゃあもっとこうしないと」と言ってしまいたくなりませんか?それが必ずしも悪いことばかりではありませんが、現実を突きつけることで子どもの意欲が逆に下がってしまうこともあるのです。さらに、「生きていくためには収入が必要だからそのために働いているだけ」というような消極的な親の姿を見続けていたとしたら、「大人になって働くのって夢がないんだな」と思い、その子はいっそう将来の夢を語らなくなっていくかもしれません。

子ども自身の考えやペースを尊重する

とはいえ、「だから大人たちも夢を持って働くべきだ!」なんてことを私は思っていませんし、できる人とできない人がいるのが世の常です。我々大人は、「たとえ仕事がつまらなくてもそれで得たお金で自分の好きなことをして楽しんでいる」「働いて得たお金で子どもがやりたいと思ったことをやらせることができる」、そんな姿を子どもに見せられれば十分だと思います。そして、夢の実現に向かって行動して欲しいと思うなら、子どもの発言に「いいね、それ。どうやったらなれそう?」と、一旦子どもの思いを受けとめてその実現方法を具体的に本人に考えさせるという方法もあります。たとえ子どもから出てきた考え方が、親からすれば現実的に甘いと思ったとしても、です。実はこの応答が、子どもの自己肯定感を育てることにもつながります。最後に、子どもが夢を語らなくても焦る必要はありません。なりたい職業が見つからなければ、まずは目の前の自分の好きなことに夢中になってもらえばいいと思います。子どもはどんどん変化していく生き物ですし、気まぐれなことも多々あります。そのような子どもの変化を成長と捉えて、長い目で見るこころの余裕を我々大人は持っていたいものですね。

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