【シリーズ11回】相手の話を聴くとは①

【シリーズ臨床心理士のつぶやき】

「聞く」は会話の基本

 一時期、「これであなたも聞き上手になれる!」といった類の本がブームになったことがあったような気がします。私も、東山紘久先生の「プロカウンセラーの聞く技術」という本を読んだことがありますが、こちらは専門家ではない一般の方でも非常に読みやすく、日常でもすぐに使えることが書かれてあったと記憶しています。興味のある方はどうぞ。
 ところで、人の話を聞くというのは簡単でもあり難しくもあります。ここでの「聞く」は、学校で行われる授業や朝礼など、多数に向けられた先生の話を聞くことではなく、一対一の、双方向の言語的コミュニケーション(いわゆる会話)において、相手の話を聞くということを指します。友人や家族内での何気ない日常会話であっても、聞き方一つで思わぬ結果になることもあります。相手と会話で意思疎通を図るうえで、「聞く」という行為は最も基本的な土台の部分とも言えます。

「聞く」のは相手のことばだけではない

 話を聞くというのは、物理的には相手が話しているのを遮らずに黙っていれば成立します。しかし実際は、相手の方を見る、うなずく、首をかしげる、前に乗り出す、腕を組む、等々の非言語的コミュニケーションを聞き手が行います。これら聞き手の反応によって、話し手は自分の話を聞いてもらえているかどうかを判断します。「自分の話を聞いてもらえている」と話し手が心地よく感じるほど、話し手はますます話をするようになります。
 また、聞き手も話し手のことばだけを聞いているわけではありません。話し手の表情、身振り手振り、抑揚などから、話し手の「感情」も情報としてキャッチしているはずです。つまり、語られたことばの内容だけでなく、どのように話しているのかについての様々な情報を同時に聞き取っているのです。

話し手のニーズに応じた聞き方


 一般的に、話し手が人に何かを相談するという状況は聞き手に解決策を求めている、という関係が成立しやすいです。そのため、聞き手は何らかのアドバイスや提案を行います。それが話し手のニーズにそぐえば、「話してよかった」となります。聞き手としても、相手の役に立ててよかったという思いになります。
 では、話し手が特に解決策を求めてはいないときはどうすればいいのでしょう。相手が最初からそう言ってくれたらいいのですが、困っている人はまず初めに「どうすればいいか」と聞き手に問いますよね。当然聞き手もそれに応じて色々アドバイスをするのですが、話し手から「でも…」が延々と続いて最終的には聞き手がうんざりする、ということが起こります。すると、話し手は「分かってもらえなかった」という気持ちになり、お互いにやりきれない気持ちで終わります。
 このような場合、話し手自身も気づいていないことが多いですが、実は「話を聞いてもらって気持ち受け止めて欲しい」というのがニーズだったのではと思えることがあります。私はこういう聞き方を表すときに「聴く」という漢字を使うのが好きです。「聴く」については次回もう少し深入りしたいと思います。まずは相手のニーズに応じた聞き方から意識するといいでしょう。

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