こんにちは。小西です。
先日、私が毎週受講している英語のレッスンで、とてもおもしろい体験をしました。
それほど難しくない英語の文章を、最初は「タイトルなし」で読み、そのあとでタイトルを教えてもらって、もう一度読み直すという授業でした。
タイトルなしで読んだときでも、正直、文の意味はある程度とれます。
「誰が」「何をしているか」といった情報は、文法や単語の力で拾うことができます。
しかし、頭の中に浮かぶイメージはどこかぼんやりしていて、
この話は結局、何についての話なのか
書いている人は、何を一番伝えたいのか
というところまでは、はっきりとはつかめませんでした。
ところが、タイトルを確認してから同じ文章を読み直すと、見える世界がガラッと変わりました。
「この文章は、こういうテーマについて書いているのだ」と分かった瞬間に、登場人物の気持ちや、筆者が暗示していることまで、頭の中にストーリーとして浮かんでくる感覚がありました。
まさに、英語の意味を追うだけでなく、「心的表象(mental representation)」が一気に鮮明になった瞬間でした。
これは、受験英語とも無関係ではありません。
共通テストの英語には、すべての大問にリード文がついています。
リード文には、
あなたが今どんな立場の人なのか
その英文を読んで、何をしなくてはならないのか
が丁寧に書かれています。
本来であれば、リード文を読むことで「自分は今、どんな状況で英語を読んでいるのか」という背景が分かり、その上で設問を見ると、「どこに気をつけて読めばよいか」も見えてきます。
ところが、実際に共通テストの過去問を解いている受験生を見ていると、
設問にはしっかり目を通しているのに
リード文はほとんど読まずに飛ばしてしまっている
というケースが少なくありません。
これでは、せっかく用意された「ヒント」「道しるべ」を、自分から捨ててしまっているようなものです。
英検の長文問題も同じです。
多くの長文にはタイトルが付いていて、そのタイトルには「この文章は何についての話か」というメッセージが込められています。
タイトルを意識しながら読むことで、内容がつかみにくい文章でも、「ああ、こういう方向の話になりそうだな」とイメージしやすくなる場面がたくさんあります。
今回は、中学生向け・高校生向けに分けて、
「タイトルなし」と「タイトルあり」の両方を体験してもらう実践トレーニングをご紹介します。
自分でも実際に読んでみて、「タイトルやリード文があると、こんなに読みやすさが変わるんだ」という感覚をつかんでもらえたらうれしいです。
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実践① 中3~高1向けトレーニング
― 短めの英文で「テーマのつかみにくさ」を体験する
まずは、少し短めの英文です。
タイトルやリード文といった「付加情報なし」で読んでみてください。
(英文1:タイトルなし)
Staying focused for a long time becomes easier once you prepare the space around you.
Too much noise or light quickly pulls your attention away from the task.
A short break, taken before you get tired, often refreshes your mind.
Instead of pushing yourself endlessly, try dividing the work into smaller parts.
Each time you finish a section, the small success helps you continue.
For this reason, good habits create a rhythm that keeps your focus steady.
読み終わったとき、どんなテーマだと思いましたか。
「環境づくりの話」「休憩の取り方」「勉強法」「仕事術」……いろいろな言い方ができそうだと思います。
では、次の4つのタイトルのうち、どれが一番ふさわしいかを選んでみてください。
A. Small Changes That Make Work Feel Shorter
B. Learning to Control Your Study Environment
C. Breaking Big Tasks into Smaller Steps
D. Habits That Help Your Concentration Last
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正解は、D. Habits That Help Your Concentration Last です。
Aは「作業時間を短く感じさせる工夫」、
Bは「勉強環境のコントロール」、
Cは「大きなタスクの分割」。
どれも本文の一部には関係していますが、
環境・休憩・分割・小さな達成感をまとめて、「集中力を長く保つ習慣」というところまで言い切っているのはDだけです。
タイトルを意識すると、
「あ、この英文は“集中力を長く続かせるコツ”をまとめて説明しているんだな」
と分かりやすくなり、
最初の二文は環境の話、
次の二文は休憩と分割の話、
最後はそれらをまとめた「習慣・リズム」の話、
というように、構成もつかみやすくなります。
逆に、タイトルなしで読んだときには、
なんとなく勉強のコツっぽいけれど、
結局、何を一番言いたいのかは少しボヤける
という感覚になった人も多いと思います。
この「ボヤける感じ」と「スッと一本芯が通る感じ」の差を、まずは短めの英文で体験してみてください。
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実践② 高2~高3向けトレーニング
― タイトルなしで読む → 4択からタイトルを選ぶ
次は、少し長めの英文です。
中3~高1向けよりも文量を増やし、英検準2級~2級レベルを想定しています。
ここでも、最初はあえてタイトルなしで読んでみてください。
下のA~Dの4択は、まだ見ないつもりで読み進めましょう。
(英文2:タイトルなし)
Many people today are very busy, so they like to finish small tasks at home as quickly as possible.
After a long day at school or work, they just want to put their used bottles, cans, and packages into one bag and forget about them.
They feel that the city will handle the rest, because there are trucks, plants, and workers who are paid to deal with our “unwanted things”.
Over the last few decades, however, towns have created more and more rules about how we should deal with what we throw away.
At first, these rules may look annoying: different days for different bags, special boxes for certain items, and posters that tell us to follow many details.
Behind these rules, though, there is a serious reason.
When all kinds of things are mixed together, the people at recycling centers and burning plants must spend a lot of time and money separating them.
They work near hot furnaces and heavy machines, and sometimes they face danger from broken glass or chemicals.
If each family takes a little more care before putting things out on the street, the work inside those factories becomes safer and more efficient.
There is another side to this story, too.
When we stop for a moment and look at what we are putting into the bag, we start to notice how quickly we buy and throw away things.
That small pause can change our habits: we may choose products that last longer, or try to reuse something instead of replacing it.
In this way, a quiet moment in the kitchen can slowly change the amount of waste our society produces and the quality of the air, water, and towns that the next generation will live in.
読み終わったら、いったん本文から目を離して、次の二つを自分の言葉で考えてみてください。
この文章は、結局何についての話か。
読み終わったあと、どんな場面が頭に浮かんでいるか。
ここまでが「タイトルなし」で読んだ状態です。
では今度は、次のA~Dの中から、「この文章全体のタイトルとして一番ふさわしいもの」を一つ選んでみてください。
A. Convenience First: The Way We Live Today
B. Small Choices, Big Impact on Our Future
C. Why Rules About Daily Life Are Increasing
D. Inside the World of Modern Factories
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正解は、B. Small Choices, Big Impact on Our Future です。
確かに、CやDもそれなりにそれっぽく見えます。
文章の中には、生活ルールや工場の様子も出てくるからです。
しかし、一番の柱になっているのは、
私たち一人ひとりの小さな選択が、未来の町や環境にどうつながっていくか
という点です。
そこで、「小さな選択」「未来への影響」を正面から表しているBが、最もふさわしいタイトルになります。
タイトルを確認したうえで、もう一度この英文を読み直してみるとどうでしょうか。
忙しい生活
→ ルールの増加
→ 工場の負担と危険
→ 私たちの意識と買い方
→ 未来の町・環境・次の世代
という流れが、一つのストーリーとしてつながって見えてくるはずです。
この「まとまり感」の差が、タイトルやリード文の有無による読みやすさの違いです。
高2・高3では、こうした少し長めの英文でも同じ体験をしておくと、共通テストレベルの文章に入ったときに大きな助けになります。
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おわりに
英語長文が苦手な生徒を見ていると、どうしても「単語」と「文法」にばかり目がいきがちです。
もちろん、それらは土台としてとても大切です。
ただ、それだけでは「意味はなんとなく分かるけれど、読んでいてしんどい」という状態から抜け出しにくいのも事実です。
タイトルやリード文は、「この文章は何についての話か」「自分はどんな立場で読んでいるのか」を教えてくれる、いわば地図のような存在です。
ここをきちんと読むだけで、読み始める前から頭の中にざっくりとしたイメージが用意され、読解の負担がぐっと軽くなります。
是非、タイトルやリード文みしっかり目を通して、長文読解の助けにしてください。
文責:小西正也
