シリーズ第22回「学校へ行けなくなった子がいく学校って何?」

【シリーズ臨床心理士のつぶやき】

以前とある研修に行ったときに、「大阪にこんな学校ができていたなんて!」と驚いたのを今でも鮮明に覚えています。今回は、私が一体何に驚いたのかをご紹介したいと思います。
※これより以下の内容は、一般社団法人全国PTA連絡協議会のウェブサイトから引用しています。より詳しい内容を知りたい方は、リンク先からホームページをご確認ください。

学びの多様化学校とは?

学びの多様化学校とは、不登校児童生徒の実態に配慮して、特色ある教科を新設したり、総授業時間数を削減したりするなど、特別の教育課程を編成して教育を実施している学校です。学校教育法施行規則第56条等に基づいて文部科学大臣が指定するもので、一般の小学校、中学校、高等学校等と同じく卒業資格を得ることができます。以前は不登校特例校という名称でしたが、子どもたちの目線に立った名称とするため、2023年8月31日に「学びの多様化学校」へ変更されています。

学びの多様化学校の具体的な特徴については、各学校ごとに違いがあるためすべてを網羅することはできませんが、おおまかなものとしては以下のような特色がみられます。

  • 年間の授業時間数は、学習指導要領に縛られず、通常よりも少ない … 標準授業時間数が小4~中3で1000時間程度のところ、750時間程度など
  • クラス担任は2人とし、男女を組み合わせる
  • 授業は習熟度別に行われ、自分の学力に最も適したクラスで授業を受けられる
  • 集団に入りづらいときに使用できる個別スペースを用意
  • コミュニケーション能力の向上をめざし、ソーシャルスキルトレーニングの授業を実施
  • 朝の時間や放課後のゆとりを考え、午前2時間、午後2時間を基本とする
  • ラッシュ時間や地元学校の登校時間と重ならないよう登校時刻を設定
  • 音楽・美術・技術・家庭を統合したクリエイティブな授業を設置
  • オンライン授業配信を行い、登校できなくても学びを続けられるような環境を整備
  • 給食はなし、お弁当は学校内のどこで食べてもよい
  • 1日の最後は掃除ではなく、個別担任との短い面談
  • 校外学習などの体験型学習を年4回以上実施

学びの多様化学校にはどんな種類があるの?

学びの多様化学校は設立形態に応じて下記の4区分があり、政令市など都市部を中心に新しい学校の開設はハードルが高く、分教室型で設置が多くなっています。

学校型独立して設置されるタイプ
分校型母体となる本校と分離して設置されるタイプ
分教室型一般の小・中学校を母体とする本校をもち、一部の学級のみを学びの多様化学校として指定
コース指定型高校において特定のコースを学びの多様化学校として指定するタイプ

ざっくりとした説明になりますがそれぞれの特徴を述べると、学校型はその名の通り不登校の児童生徒のみが通う学校です。

分校型は本校とは異なる場所に設置されており、対象生徒は市内や県内の様々な地域から通うことになるため、比較的アクセスしやすいところにあります。

分教室型は不登校ではない児童生徒が通う学校内にあるいくつかの教室、または校舎を学びの多様化学校として設置しています。こちらは元の学校の在籍生は転校の必要がありませんが、他の学校から通う場合は転校する形になります。

コース指定型は高校生を対象としており、高校が設置した特定のコースを学びの多様化学校として通う形になります。そのため、他のコースに通う児童生徒たちと生活空間を共有することになりますが、一緒に同じ授業を受けることはありません。

適応指導教室やフリースクールと何が違うの?

一番大きな違いは、在籍校が完全に変わるという点です。フリースクールや適応指導教室は、もともと通っている学校に在籍しながら通う場所で、進路に関わるテストは原則的に在籍校で受ける必要があります。ところが、学びの多様化学校に通う場合は転校という形をとるため在籍校が変わります。他にも、フリースクールに通う場合は一定の条件を満たさないと在籍校の出席としてカウントされないこともありますが、学びの多様化学校では在籍校に通うことになるため出席扱いになります。

逆に共通しているところとしては、入学に際しては必ず事前相談、面談、本人が通えるかどうかの適正確認、などのプロセスがあります。親が入学を希望したからといって、すぐに子どもが通えるとは限らない点は適応指導教室やフリースクールと変わりません。また、定員や入学時期を定めているためタイミングによってはすぐに入学できない場合もあります。

大阪市立心和中学校の場合

学びの多様化学校(不登校特例校)が最初に設置されたのは、2004年東京の八王子市立高尾山学園小学部・中学部と、同年京都の京都市立洛風中学校です。実は20年以上も前から設置されていたのですが、大阪に設置されたのは2023年でした。それが大阪市立心和中学校で、現在のところ大阪市内で設置されている中学生対象の学びの多様化学校はこの1校のみです。場所は浪速区日本橋にあり、大阪市立中学校または義務教育学校後期課程に在籍する生徒が対象です。こちらも入学するには、現在の在籍校から転校するという形になります。詳しい学校の内容についてはここに書ききれませんので、以下のホームページをご確認ください。

筆者の感想

私は昔、とある市が開設していた適応指導教室に勤務していた経験があります。そこに通う子どもたちを見ていると、「こんなに元気なのにどうして学校に通えないんだろう」と不思議に思っていた時期がありました。当時は現在と異なり、「適応指導教室に通う=学校へ通えない」という図式が社会的にも根強くあり、なんとかして学校へ通えるようになって欲しいという目標が教育関係者内に共通していたように思えます。そのためか、不登校である本人やその保護者には、学校へ通えている生徒たちに対してどこか後ろめたい気持ちがあったように見受けられました。

なぜそんな気持ちになるのかについては色々な視点から考えることができますが、私が参加した研修で聞いたことばが大きく腑に落ちました。それは、「今までは子どもが学校に合わせてきた、これからは学校が子どもに合わせる」というものでした。これは本当に大きな教育の転換点だろうなと思いました。子どもが学校に合わせるという風土が当たり前の状況下では、学校に行けないことに対する後ろめたさを感じるのは当然と言えます。それが、学校が子どもに合わせるという風土に変わって来れば、学校へ通えなくなっとしても子どもや保護者が自分自身を責める必要がないのです。かといって、通えなくなった学校が悪いというわけでもありません。「単にその学校がその子に合わなかった、だからその子に合う学校に変わればいい」という視点に立つことが容易になります。当事者にとってはそう思えるだけでも、随分と気持ちが軽くなれるような気がしています。

まだまだ学びの多様化学校の設置数は不登校児童生徒の人数に対しては少なく、現場で教育に携わっている先生方全員がすぐに気持ちを切り換えるのも難しいと思います。「そこに通うことで子どもの将来は大丈夫なのか」などという心配が、学校現場から出て来ても不思議ではありません。その一方で、学校現場の先生たちにとっても学びの多様化学校が増えることで、子どもたちの将来に対する不安が多少なりとも軽減されるのではないか、とも思えます。
というのも、先生たちにも不登校の生徒にできる限り関わりたい、何とかサポートしたいという気持ちがあるものの、学校に通って来ている生徒たちをないがしろにするわけにもいかず、予算や人員が削られていく中で現場の先生たちもますます多忙になっています。不登校生徒のことが気掛かりでも十分な時間が取れず、もどかしい思いをしている人もいるのではないかと思います。そのような状況で学びの多様化学校ができたことで、「この学校に通えなくなるのは寂しいが、子どもが生き生きと過ごせる環境なら後押ししてあげたい」、という気持ちになりやすいかもしれません。

スクールカウンセラー制度がそうであったように、新しいものが根付いていくには、やはり時間が必要です。特に、人の価値観というのはすぐに変わるものではありません。それでも、新しい教育の形が少しずつ浸透してきている事実が、私個人としては今後の期待を十分抱けるものでした。

タイトルとURLをコピーしました