【シリーズ第10回】「いかに待てるか」

【シリーズ臨床心理士のつぶやき】

「うちの子はほんと言うことを聞かないんです」これは、子育て相談のみならず様々な場面で多く聞かれるフレーズかもしれません。むしろ、この現象が相談へつながる糸口になっていると言っても過言ではありません。(子どもが言うことを聞かないという現象には色々な要因が考えられますが、ここでは発達に凸凹のある認知特性を持った子のケースは除きます)今回は、子どもの行動を待つことの意味について考えてみます。

声掛けは誰のニーズに基づいている?

「言うことを聞かないから結局私(親)がしないといけないんです」という声も、先ほどのフレーズに続く形でよく耳にします。確かに状況によっては、子どもよりも先に親が動かないと危険なことはありますが、日常生活においてそれほど危機的な場面は頻繁に起こらないでしょう。実際に相談の中身をよくよく聞いていくと、親自身の価値観に従わないことに対して「言うことを聞かない」と怒っていたことに気づいていかれる方が多くおられます。また、親自身が不安を感じやすい性格の場合も、子どもが自分で気づく前に声掛けをしがちです。

つい「早くしなさい」と言いたくなる

「そろそろ~~したら?」「~~はどうするの?」という言い方には、「早くしなさい」というメッセージが込められていることが多々あります。そして、子どもが今やっていることを止めずすぐに指示に従わない姿を見て、「言うことを聞かないから私がやらないといけない」と、親はストレスを溜めます。子どもが小さいうちは、特に朝の支度が戦場のようになることもありますので、親が指示しないと間に合わない場面も多いでしょう。しかし、そうではない比較的急いでいない場面でも、「早くしなさい」というメッセージを伝えていることがあります。このやりとりには、「言われたことはすぐに実行すべき」「子どもは親の言うことを聞くべき」等といった、親側の価値観や親都合が無意識的に反映されているのかもしれません。でもそれに自分で気づくには難しく、「~~しないと〇〇になるよ」「~~したら××できないよ」といった、いわゆる正論を並べる自己防衛に陥りやすいのです。

知らず知らずのうち甘やかすことに

子ども側からすれば、しばらくしてからやるつもりだったところを結局最後は親がやってくれたり声をかけてくれたりするため、「自分でやらなくても親がやってくれる」「自分で考えなくても声掛けしてもらえる」といった、行動パターンを学習します。そのようなやりとりが続くと、親が子どものためと思ってやってあげることが甘やかしになってしまい、かえって子どもの自立を妨げてしまうことになります。だから、「待つ」という関わり方も時には大切なのです。そうはいっても、子ども1人1人切り替えに必要な時間は異なりますし状況によっても変わります。まずは1分待ってみてから声をかけてみる、次は2分待ってみる・・・という具合に、子どもの様子を「観察」する視点を持つことから心がけるといいかもしれません。

発達年齢に応じて指示から提案へ

思春期以降の子どもは、親の指示に従わなくなってくることのほうが一般的です。そこで指示を通そうとしても親子喧嘩に発展してお互い消耗して終わり、といったことも珍しくありません。そこでお勧めなのが、「提案する」という伝え方です。「私は〇〇のほうがいいと思うけど、どうするかは任せる」という言い方をすれば、親の言いたいことを言えるだけでなく、その内容について受け入れるか拒否するかを子ども自身に委ねられます。この伝え方は、親子の間に一線を引いて距離を取るイメージです。もちろん子どもが親の提案に乗らないことの方が多いですが、それはそういうものとして割り切っていきましょう。子どもは子どもなりに考えて行動し、失敗しながら学んで成長していきますので、子どもの成長に応じて子どもへの関わり方も変わらざるを得ないのです。

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